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“花嫁のれん”という語の英訳に対する疑義に答えて

花嫁のれん | 2009年5月10日

 昨日、花嫁のれんの英語説明のチラシ(Hanayome-noren is Japanese sign curtain.
と訳した)
に関して観光客から「“花嫁のれん”の中の“のれん”という語の英訳が“sign curtain”ではおかしいのではないか。むしろ“tapestry(タピストリ)”ではないか。私らの町では、アーケード街に垂らした文字やデザインの入った薄い布幕をタピストリと呼んでいる」との指摘があった。 
 私は、その場で反論はできなかったが、その観光客に「たぶんタピストリとは違うと思います」と答えた。何故かというと今から30年近くも昔の大学の1、2年の時、教養講座で西洋のタピストリを研究している先生の講義を受けていたのだ。理由はすぐに思いつかなかったが、現在日本でよく使われるタピストリという語の使用法が間違いという気がしたのだ。

 そこでまずタピストリ(tapestry)という語について調べてみた。
 研究社の“New Collegiate Dictionary Of The English Language”によると
 a large pieace of cloth with pictures woven on it, used to hang on walls,over furniture,etc. となっている。つまり絵が織り込まれた大きな布きれで、壁や家具などにかけられたりするものである。

 もう一つ念のため英英辞典として定評の高い開拓社の“Idimatic And Syntactic English Dictionary ”も調べてみると
 (a piece of)cloth with pictures or designs woven in it,used cover furniture,hang on wall,etc.とあり、やはり、絵やデザインが織り込まれた布(または布きれ)で、家具の上や壁にかけられたもの、とある。さらにtapestried というtapestryの過去分詞形の語が形容詞の単語として書かれており、
  covered or decolated with tapesty と意味が書かれている。つまりタピストリで飾られた又は飾られたという意味の形容詞となっている。

 上の辞書2冊では載っていなかったが、旺文社の“Comprehensive English-Japanese Dictionary”では、tapestryは(名詞では上記2冊の辞書同様“つづれ織”“つづれ錦”となっており)、他に他動詞の意味が載っている。他動詞としては、1、・…につづれ織を掛ける、…をつづれ織で飾る。2、…をつづれ織で描く、となっている。

 つまりは、タピストリとはそこに描かれた絵やデザインが、織られて描かれたものでなくてはならないのだ。絵柄などが加賀友禅などで染め出されたり印刷で描かれた布は、いくら形態が似ていてもタピストリと呼ぶのは本来間違いなのである。

 最近確かに、街角で絵や文字を書いた小さな布きれをタピストリと呼んでいるのは私も知っている。しかしそういう用法をしているのは語の深い意味を考えない日本人だけかもしれない。

 では次に、暖簾(のれん)をsign curtain(サイン・カーテン)と呼ぶのは正しいのか?私は、暖簾を和英辞典で調べ“sign curtain”とあったのをそのまま利用した。実のところ、その辞書にはもう一つ書かれており、そのままローマ字で“noren”とあった。しかし“noren”という英単語(?)が世界共通語となっているとは思えない。

 “sign curtain”という語が変という人は、日本で“カーテン”という際の窓際などに用いられるカーテンの狭い意味合いでしか、つまり日本的感覚でしかcurtainを捕らえていないからであろう。先に紹介した開拓社の辞書では、curtainの1番目の意味として
 a sheet of cloth or other material hung up as a covering,e.g. at a window or door or (in former times) round a bed. となっている。
 訳すと、(たとえばラテン語の場合、窓やドアまたは(昔)ベッドの周囲に)覆いとして吊るされた布または他の材質のシート、という意味になる。
 ここではドアに吊るされた、と書かれており、まさに日本の暖簾に近い意味だ。カーテン(curtain)は他にも2番目以降の意味として、緞帳のようなものやカーテン状のもので火や霧、煙などから防護する覆いをするもの(something)などという意味も出ており、広い意味を持つ語なのだ。

 またsignは日本でよく使われる意味の署名だけがsign(サイン)ではない。エンブレムやマーク、記号、標識、看板、標識など様々な意味がある。意匠などの意味のdesignは、de・signであって、この場合の接頭語のdeは否定などではなく強意のdeだ。つまりdesignもsignの一種と考えられる。
 よって暖簾をJapanese sign curtain と訳したのは、可笑しな訳ではなく妥当な訳ではないかと思う。

 観光客を勿論非難などするつもりはない。
 他の英訳箇所なども調べれば、正確かどうか自信がないから尚更だ。
 翻訳というものは、このように突き詰めると本当に難しいものである、と言いたかっただけだ。


 



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